なお、以下の文中 YouTube へのリンクをいくつか貼っておきますが、できればニコニコ動画で見た方が楽しいと思います。
組曲『ニコニコ動画』 、その誕生と発展
YouTube などの他の動画アップロードサービスと比較した場合、コニコ動画 の最大の特徴は動画に字幕形式でコメントを入れられる点にあります。この特性は、ニコニコ動画にアップロードされた楽曲に対して、「替え歌」を作ったり、そもそも歌詞のない曲に勝手に歌詞をつけたり、という遊びを促進しました。こうゆう遊びに使われる曲は、著名なものも多いのですが、あまり知られていないマイナーな曲が替え歌などによって突然評価されることも多く、ニコニコユーザの間でのみ高く評価される独特の人気曲リストが生成されていきます。
そして2007年6月23日、これらニコニコユーザに人気のある33の楽曲をつなぎ合わせたユーロビート調の打ち込みメドレー”組曲『ニコニコ動画』”がアップロードされます。この演奏時間10分を越える大作は大きな反響を呼び、大量の改変バージョンが作成されることになります。
組曲 ニコニコ動画 カラオケ字幕
まず最初に反応したのは、歌うことが好きな人たちだったようです。同時にMP3も公開されたため、いろいろな人がこの曲の「歌ってみた」バージョンを公開しました。やがて、「歌ってみた」バージョンの中で、特に秀逸で人気を呼んだものを集めて、再編集した「合唱曲」バージョンが生まれます。
合唱 組曲『ニコニコ動画』 featuring 初音ミク Special-Edition Ver.2
これと前後して、編集による合唱だけではなく、実際に人を集めて合唱したムービーも数多く公開されています。
また、楽器を弾ける人は、組曲を生楽器で演奏した、「演奏してみた」バージョンを多数公開しています。吹奏楽で使われる一般的な楽器はもちろん、琴などの和楽器も含めて、その種類は多く、これらを編集した「オーケストラ」バージョンも作られています。
大合奏〜組曲『ニコニコ動画』 Ver7.0
さらには、オーケストラバージョンと合計100人以上の合唱を組み合わせた超豪華バージョンまで。
百人の組曲『ニコニコ動画』大合奏+リアレンジ+大合唱(大砲付き)
最初のバージョンが発表されてから4ヶ月ちょっとですが、現在ニコニコ動画で "組曲『ニコニコ動画』" のタグがついたムービーは、1200個以上になっています。
興味深い点
組曲『ニコニコ動画』と、それにまつわる一連のムーブメントは、様々な言説が引き出せる面白さがあります。
例えば、歌詞の一部にオタクやニートに対する自虐的な部分を見出して若者の社会に対する自信のなさを論じるとか、歌詞の一部に「君が代」が含まれている点を元に若者の右翼化傾向について論じるとか。あるいは、曲やムービーの大部分が権利的な問題をクリアしていない点をいつものように槍玉に挙げることもできるし、逆にこれだけの支持を受けた楽曲が(権利関係が複雑すぎるので)カラオケなどで配信できない点を元に消費者と著作権保持者の間にあるシステムの欠点を指摘してみるとか。他にもいろいろ。
個人的に、特に言及しておきたい点がふたつあります。
疎結合なネットワーク
「百人の組曲」に象徴されますが全体として、明確な中心的人物なしに、大勢の人間が関わり複雑なプロセスを経て成果物が産み出されています。Linux のようなオープンソースソフトウェアや、Wikipedia や 青空文庫 などの大人数のボランティアによる巨大な成果物は、中心となりプロジェクト全体を管理する少数の人物が存在するものですが、今回の「組曲」にはそれにあたる存在が見当たりません。それどころか、ニコニコ動画そのもののコメント機能を除けば、BBS のようなコミニケーションのための場すら明確には存在しません(2ちゃんねる内にスレがいくつかあるようですが)。にも関わらず、結果としてかなりうまくいってるのは、オリジナルの組曲をベースに膨大な数の二次生産物が作られ、二次生産物のうち高く評価されたものを元にして三次生産物を産み出す、という進化論的アプローチがうまく機能しているためだと思われます。この手のアプローチが成功するためにはいくつかの条件がありますが、組曲に関しては以下のように分析できます。
- 人々の関心をフォーカスする魅力的な種:オリジナルの組曲が、最初からかなり高いクオリティーだった
- 十分なヒューマンリソース:ニコニコ動画の会員数は今年5月で100万人。10月には300万人を越えている
- 効率的な評価システム:各ムービーは10分でチェックでき、ニコニコ動画自体に様々なランキングシステムがある
ただ、何より大きいのは、音楽そのものが持つ柔軟性と強さだったようにも思います。
様々な楽器や声で演奏でき、Remix などのアレンジを加えられる柔軟さと、そのような改変を加えてもなお同じ曲のバリエーションとして認識される強さは、音楽特有のものです。例えばこれがソフトウェアであれば、互換性の問題なしにこれだけのバリエーションを産み出すことは困難だし、仮に独立性の高いモジュール化のような手法を用いてもコンフリクトなどの問題から逃れることは難しいと思います。
逆に言えば、より柔軟かつ強いアーキテクチャが実現できれば、ソフトウェアもまた進化論的アプローチが適用可能になるだろうとも言えます。
言葉と文化の壁
インターネットの普及は、地球規模で情報の伝達量を大幅に増加させましたが、特に近年の日本/中国/韓国そして台湾でのブロードバンドネットワークの普及はすさまじく、BBS や動画投稿サイトを通じて市民レベルのコミニケーション(時として口喧嘩)が活発になってきています。とはいえ、アジア諸国の言葉と文化の違いは大きく、私はつい最近までこの壁を乗り越えるにはもう何世代か必要なのではないかと考えていました。
ところが、組曲はあっさりと言葉と文化の壁を越えてしまったようで、台湾や韓国の人が歌う組曲がニコニコ動画に何本かアップされています。もっともインパクトがあったのは、台湾中央大学の中央動画社(アニメ部)が歌謡祭(アニソンを歌うイベントらしい)で実現した258人による合唱です。
せっかくだから台湾人258人で一緒に組曲『ニコニコ動画』を歌ってみた!
さすがにこの人数だと、バラバラになってしまっていますが、数人で歌っているムービーを見ると、日本人が歌っているのとほとんど区別つかないようなものもあります。ちなみに、台湾の人口は2200万人程度で、日本の約6分の1です。てことは、仮に人口比的に同規模のイベントを日本で実現しようとすると、約1500人での合唱ってことになります。
余談ですが、私自身は組曲の原曲の大半を知らないのですが、どうみても台湾の人たちの方が詳しそうなのは、なかなか面白いと思います。
メタバースのような場をリアルタイムに共有するシステムで、今後言葉の通じない者同士が出会う場面も増えていくことでしょう。そのような場面において、ソフトウェアがいかに人間をサポートできるかは、今後重要な課題になっていくだろうと思います。特に、Metaplace のように多くの機能がユーザに開放されているシステムにおいては、ユーザがみんなで知恵を出し合い、試行錯誤を繰り返すことによって、何か有効な手立てを模索することができるんじゃないかと思います。そして、このような言葉の壁を越えたコミニケーションに対する取り組みは、英語圏の人よりもアジアの人たちが中心になっていくのかな、という予感がしています。
そうゆう意味で、組曲のようなユーザが作ったものを互いに面白がれるというのは、ちょっと希望の持てる話だと思います。
極端な話、Metaplace でカラオケを作って(作れるのかどうかは知りませんが)、この曲を一緒に歌えば、友達になれそうな台湾人が最低 258 人はいるんだな、と。
